書名:
近代精神医学の成立 
    
「鎖解放」からナチズムへ

著者:小俣和一郎

価格:2300円
サイズ:四六判上製 218
ページ 刊行日2002年5月 
ISBN4-409-34027-1 (専門/精神医学・社会史)

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目次

第一章 問題意識 :一 これまでの精神医学史  二 一つのフーコー批判   三 近代精神医学の成立が意味するもの
第二章 近代精神医学の成立にかかわる諸契機: 一 間題史「十八世紀」  二 狂気の言語化過程 三 「静かな狂気」の抽出 ――狂気をめぐる評価軸の転換 四 精神病院の二つの起源
第三章 病院精神医学の成立と形成 : 一 「鎖からの解放」の意味  1 ピネルによる患者の解放  2 その他の解放  二 無から有へ――未分類から初期の分類ヘ  三 臨床経過への着目――単一精神病論   四 病因論をその内に含む分類  五 ドイツ人の構想  六 ドイツ病院精神医学の展開――単一精神病論からの離脱 七 ハイデルベルグの危機
第四章 大学精神病院の登場 : 一 大学という施設  二 教室での講義から臨床講義へ  三「都市部精神病院」(グリージソガー)という構想  四 ベルリンの危横――大学精神病院としてのシヤリテの成立  五 病院精神医学から大学精神医学へ  1大学精神病院の展開   2実体としての神経―神経学と精神医学   3クレペリソによる精神疾患の体系化  六 学派(Schule)の形成と大学精神科  七 狂気概念の変遷史 1 狂気の意味系列   2 狂気の名称と近代法
第五章 近代精神医学の終焉 :一 十九世紀末から二十世紀にかけての近代精神医学   1進行麻痺という問題  2疾患単位か症状群か 3 記述現象学的精神病理学の登場  二 第一次大戦と精神医学  1 フロイトと第一次大戦  2 精神分析学への覚容と不覚容  3 心囚概念の変遷  4学問と治療の乖離――ショック療法の登場  三  狂気と優生思想  四 ナチズムという問題  五終焉の時期――精神医学史における近代と現代の境界をめぐって
第六章 日本の近代と精神医学  一明治維新と精神医療   二 国家としての医学   三精神医学の「ゲルマン化」  四 七三一部隊と人体実験 
第七草 まとめ
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著者・内容紹介

小俣和一郎 おまた わいちろう
1950
年、東京生れ。1975年、岩手医科大学医学部卒業。1980年、名古屋市立大学医学部大学院卒病(臨床精神医学専攻、医学博士)。1981年-83年ミュンヘン大学精神科に留学。現在、上野メンタル・クリニック(東京都文京区)院長。ドイツ精神神経学会正会員。
著書:『ナチスもう一つの大罪』(品切、人文書院)、『精神病院の起源』『精神病院の起源・近代編』(太田出版)、『精神医学とナチズム』(講談社)、『ドイツ精神病理学の戦後史』 (現代書館)、など著書多数。


拘禁施設に鎖でつながれていた近代以前の精神病者が、フランス革命期の有名なピネルの「鎖からの解放」で自由を取り戻し、より人道的な精神病院施設が発展してゆく。これに異を唱えたのがフーコーである。近代精神医学の誕生をめぐるさまざまな言説は、現代の精神病理や社会病理を考えるうえで、いまなお基本的な視軸を提供している。近世以前の精神病者は本当に自由闊達な社会的存在だったのか。「鎖からの解放」は本当にあったのか。それは史実として検証できるのか。精神病者の処遇をめぐる今日の社会的問題と深く直結した重要な歴史的出来事を検証しつつ、近代精神医学の生み出した変質学説や脳病論などがナチズム期の強制断種や「安楽死」犯罪へと尖鋭化していったことなどを含め、18世紀末から20世紀前半までの主にヨーロッパの精神医学の歴史的意義を、従来ほとんど触れられなかった一般社会、政治、宗教史との関わりから論じたパイオニア的著作。


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