河合利光 かわい としみつ
1948年生れ。東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程修了。園田学園女子大学国際文化学部教授。博士(社会人類学)。
著書:『身体と形象――ミクロネシア伝承世界の民族誌的研究』(風響社)、『生活文化論――文化人類学の視点から』(編著、建帛社)、『比較食文化論――文化人類学の視点から』(編著、建帛社)他。
近年の社会文化人類学では、文化の一貫した統合性よりは多様性と共生を、文化の伝承性よりは新文化の創造性を、調和と均衡よりは変容と混淆性を、孤立性よりは開放性と移動性を、記述における研究者の権威よりはインフォーマントの多声的な語りを強調するようになってきた。…………
本書の目的は、先に述べたように、西洋化・グローバル化・資本主義化が著しく進展した南オセアニア地域の現在的状況を、伝統の持続と変容という視点から、民族誌的に記述することにある。伝統的コミュニティの「変容」に伴い、特定コミュニティの集約的研究に基づくフィールドワークは、今後、いかほどの有効性を持ちうるのだろうか。伝統的習慣(それ自体が変化の産物であるが)の衰退と変容に伴い、文化を捨象し、過去の文献記録の歴史的研究とか、都市や国家レベルの政治経済学的研究に、とって代わられるべきなのだろうか。本書は、そのような難問に直接答えようとするものではないが、民族誌的研究の可能性については大きな関心を抱いている。 (本書序文より) |