書名:
空海 民衆と共に
      信仰と労働・技術

著者:河原 宏

定価:2310円(本体価格2200円+税110円)
サイズ:四六判上製 226
ページ 刊行日200年5月 
ISBN4-409-41076-8 (一般読者・教養/宗教・文明批評)

  内容紹介欄へ

目次
はじめに  信仰と現世利益  宗教と技術  エンジニア・エンジニアリングの理想  「橋」・「道」・「塔」――象徴の系譜律令国家への対応  仏国土の建設を目指して  

第T編 役行者――「仏国土」への夢と挫折
「亡命」に始まる:律令国家と山林修行  忿怒の菩薩像/岩橋伝説の深層橋の神話  国うみの橋、国譲りの橋  橋と国づくり/岩橋伝説の出発:幻想の伝説を考える  さまざまなモティーフ  地底の神々/「虐げられし者」たちの伝説土蜘蛛と蜘蛛塚  ハイネの『流刑の神々』  「神身離脱」  「虐げられし者」たちの救済  もう一つの亡命/なぜ役行者伝説に法華経が取りこまれてゆくのか?:役行者伝説の中の法華経  山から里へ、里から町へ  町中の仏国土  町衆と「役行者山」

第U編 行基の「道」――「知識」による諸事業
伝道と同行/福田思想と菩薩行:福田行、十三種  布施屋を生んだ過酷な徴税性  行基の布施屋/行基の先人、道昭、道慈のこと:道昭、玄奘三蔵の「道」を継ぐ  シヴィル・エンジニアの先蹤  道慈の建築術/行基の菩薩行:「小僧行基」  病人・飢者を泊めても違法  菩薩行の技術と労働  小僧から大僧正へ/聖武天皇の求道と出会い:王を奴に、奴を王に  天皇の求道――「責めは予一人に在り」  あるべき天皇像――求める仏国土  「知識」の発見と大仏創建  「知識」について/行基がめざした仏国土への道:東大寺を造るに、人民苦辛」  形成と解体の同時平行  「知識」への期待と執念  律令国家の道  仏国土への行基の「道」/〔補論1〕 「海ゆかば」――大仏開眼と黄金産出/〔補論2〕「全人」たちが存在した時代:時代と気運  日本古代の「全人」たち

第V編 空海 民衆と共に
はじめに/第一章 空と海の曼陀羅  1 大滝嶽と室戸岬――修行の二元的構成:修行時代の基点  胎蔵界曼陀羅と金剛界曼陀羅 2 高野山・金剛峰寺と京都・東寺:金剛峰寺の開設  京都・東寺の開設/第二章 空海と民衆  1 神泉苑の雨乞い 2 都市住民と御霊信仰 3 流浪の民・流亡の神/第三章 民衆はどのように空海を理解したか?  1 現世利益と究極の「方便」 2 御霊信仰と即身成仏 3 「成所作智」――"技術的理性=H/第四章 綜芸種智院と平安の市民形成  1 「院」開設――「普(あまね)く三教を蔵(おさ)めて」 2 校則――「貴賎・貧富」を論ぜず 3 平安京の住民たち/第五章 空海の「塔」  1 一神的風土と垂直への意志 2 天津神神話と垂直的構造:出雲大社の高楼  五重塔における神仏習合 3 空海の三寺四塔:法隆寺の五重塔  空海に至る塔の意味と変遷 4 五重塔における日本の美:軒反りの美  タテ軸の聖・ヨコ軸の美 5 美と技術の接点:五重塔は倒れない  吊り下げられている心柱  室生寺の森と檜と塔第六章 満農池築堤の信仰・労働・技術  1 空海、行基の「道」を継ぐ:行基伝説の広がり  空海と行基伝説の習合  行基による狭山池改修工事  池溝開発の技術と労働 2 満農池の歴史と環境:「ゆる抜き」  満農池の風土と伝説  国営工事の今昔 3 空海の満農池築堤事業:国司ら、空海の派遣を奏請  工事の完成  護摩壇の造成 4 古代と近代の信仰・労働および技術:「一日不作、一日不食」  労働を支える信仰と技術  「即身成仏」への仮説と観点  近・現代人の心身乖離/〔補論3〕高野山と水銀――仏国土のための朱と黄金/〔補論4〕一行禅師の数学・天文学

注/あとがき


著者・内容紹介

河原 宏 かわはら ひろし

1928年東京生まれ。1959年、早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。政治学博士。現在、早稲田大学名誉教授。専攻、日本政治思想史。
主著:『昭和政治思想研究』(早稲田大学出版部、1978)、『江戸の精神史―美と志の心身関係』(ぺりかん社、1992)、『日本人の「戦争」―古典と死生の間で』(築地書館、1995)、『「自在」に生きた日本人』(農文協、1998)、『青年の条件―歴史のなかの父と子』(人文書院、1998)、『素朴への回帰―国から「くに」へ』(人文書院、2000)他。
主編著:『日中関係史の基礎知識―現代中国を知るために』(有斐閣、1974)、『比較ファシズム研究』(成文堂、1982)、『日本思想の地平と水脈』(ぺりかん社、1998)他。


ワンポイント:≪エンジニア空海≫の事跡を通して宗教と科学、テクノロジー社会の未来を洞察する!

近代以降、科学は宗教を排斥して自らが求める唯一の「真理」を掲げ、技術はテクノロジーとなって実利目的の追求にひた走ることになった。21世紀に入ってそれはますます加速の度を高めている。しかし、歴史をたどれば、医学・薬学はもとより数学・天文学・化学から建築・灌漑・土木の諸技術まで、すべて深い宗教的確信と情熱の産物ではなかったか。本書は、「役行者」「行基」をその先蹤として、わが国が生んだ最高の宗教者「空海」を一人のエンジニアとしてとらえるユニークな視点から、衆生済度、万人の利福が科学やテクノロジーといかに関わるべきか、現代社会がかかえる焦眉の問題に分け入った、かつてない空海論の労作。


オーダー