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福嶋 聡 (ジュンク堂 大阪本店) |
2か月前のことで恐縮ですが、人文会全国研修のこと 10月23、24日と、「人文会40周年記念 東京合同研修会 人文書の未来を語る」が開催された。全国の人文書担当者100名強が招かれた。ジュンク堂書店からも20名参加させていただいた。心よりの謝意を表明したい。 何よりもよかったのが、現場で人文書を実際に触っている担当者ばかりが、書店の垣根を越えて、全国から集まってきたことだ。ライバルの存在を実感し、ライバルの頑張りを具体的に知り、「負けるものか」と互いに切磋琢磨することほど、書店人の意識・力量の向上につながるものはない、と信じるからだ。 というわけで、大阪本店店長であるぼくは、本来出る幕はなかった。当初、大阪本店からは、これまた人文書界(とりわけ歴史書懇話会)では顔の知れた岡村正純が代表して出席することになっていた。ところが、人文会代表幹事の春秋社鎌内宣行氏から、福嶋も来いという電話があった。「人文会の40年と人文書の可能性」というパネルディスカッションに参加せよというのである。 人文書の棚担当を外れてから10年以上経つ身としては「本当にいいの?」と思いながら、長年の人文会の皆さんとの繋がり、人文会発行『人文書のすすめ』への参画、更には『論座』はじめいろいろな媒体で人文書に拘り発言を続けてきたことを思い、参加させていただくことにした。 ぼくが参加したパネルディスカッションは第1部と銘打たれていたが、企画としてはその前に特別講演があった。縁とは不思議なものである。その講演の講師は、ジュンク堂大阪本店で7月にトークイベントをしていただいた竹内洋先生であったのだ。 竹内先生にトークイベントをお願いしたのは、4月に東京で会った筑摩書房の新書編集部にいる北村嘉洋氏にたまたま竹内先生著『社会学の名著30』を献本され、読んでとても面白かったからだ。筑摩書房は人文会会員社である(というより筑摩書房菊池社長は人文会会長である)。ジュンク堂大阪本店でのトークイベントでも、竹内先生のお話はとても面白いものであり、この人選はベストと思いながら、因果の不思議とは、やはりあるものなのだな、と思った。 竹内先生の講演は、『教養主義の没落と人文・社会科学』と題されて、相変わらずの軽妙な語り口で、会場の笑いも誘いながら、教養と教養主義の変遷と書物の関わりについてのものだった。「公論のための科学」の重要さと、そのための人文・社会書の重要さが印象に残った。 続いて、みすず書房持谷寿夫専務の司会で、ぼくたちのパネルディスカッションが始まった。皮切りで話された筑摩書房菊池明郎社長が、人文会の歩みについて語って下さったことをいいことに、「ぼくも、昔語りで」と、浅田彰氏の『構造と力』をはじめとした、80年代からの人文書の販売努力について話した。21世紀の人文書販売については、ぼくの後を受けた東京大学出版会の橋元博樹氏に委ねながら、「人文書のレゾン・デートルは、オルタナティヴ(世界の別のあり様)の提起にあります」ということは、しっかり主張させていただいた。 第2部「ケーススタディ 人文書の現在と未来」では、紀伊國屋書店新宿本店の吉田敏恵氏、大垣書店烏丸三条店の池田忠夫氏、喜久屋書店倉敷店の市岡陽子氏、あゆみブックス早稲田店の鈴木孝信氏が登壇し、人文会代表幹事鎌内氏の司会でそれぞれの現場での取り組みについて話された。 あとで、参加したジュンク堂のスタッフに聞くと、あゆみブックスの鈴木氏の辛口の内容に(すなわち仕事に対する真摯な態度に)、何よりの刺激を受けたようだった。 出版クラブでのレセプション後、宿泊するアルカディア市ヶ谷に場所を移した。 翌日9時30分から第3部「パネルディスカッション『人文書の最前線』」が始まり、小林浩(月曜社)、飯野勝己(平凡社)、磯千七美(筑摩書房)、山田秀樹(東京大学出版会)の各氏が登壇した。それぞれのお話は興味深いものだったが、飯野、磯両氏が新書編集部の方だったため、議論が「人文書」から少し離れ、ぼやけた感もあった。 そこで、休憩後の第4部「フリーディスカッション『人文書販売の未来をデザインする』の冒頭、第1部のパネルディスカッション以降はおとなしくしておこうと思っていたぼくが、やおら手を上げ、「折角来ていただいたのだから、月曜社の小林さんの現代思想についてのお話をもう少し聞きたい。」と言った。月曜社は人文会所属ではなく、小林氏は人文書についての、特に現代思想についての見識を買われてゲストで呼ばれていたので、約20分のパネリストとしての発言だけでは、もったいないと思ったのである。思いもよらず会場から、賛同の拍手をいただいた。おそらく氏の「ウラゲツブログ」を読んでいる人も少なからずいた会場の現場担当者の多くも、同じ思いだったのだろう。 小林氏は、改めて、「00年代」がこれからの人文書の可能性を支えるキーワードとなるという話をされた。「00年代」とは、21世紀になってから発言・著作を始めた世代の論者であり、所謂「就職氷河期」の世代とも重なる。 小林氏のこの示唆も、会場の人文書担当者の琴線に触れたらしく、そのテーマでフェアをやりたいという声が、色々な書店から上がってきたと聞く。小林氏の視座は、「オルタナティヴ」こそ人文書の生命線と主張するぼくのそれとも共振するから、とても嬉しいことだと思った。 全国の人文書の現場担当者を一同に会し、意見を述べ刺激し合う場を提供して下さった人文会に、改めてお礼を申し上げたい。本当にありがとうございました。全国から集まった彼ら、彼女らがつながり合いかつライバルとして切磋琢磨し合うことによって、書店現場がより魅力的な場となり、活性化されると思います。 |