○第135回(2013/12)

 12月21日(土)15:00−19:00、ラウンドテーブル、京阪中之島線「なにわ橋駅」地下1階コンコース内アートエリアB1で行われたラウンドテーブル「本宴・本について大いに語る宴」に参加した。このイベントは、京街道沿いの京阪沿線46駅をめぐる、言葉と本と名物による展覧会“鉄道芸術祭vol.3「上方遊歩46景」”(松岡正剛監修・展覧会会場もアートエリアB1)の一環で行われた関西の書店人9名によるで、7回にわたる様々なゲストによるトークイベントの末尾を飾る。参加者は関西の書店から坂上友紀(本は人生のおやつです!!)、齋藤孝司(メディアショップ )、鈴木正太郎(TSUTAYA枚方駅前本店)、中川和彦(スタンダードブックストア)、萩原浩司(宮脇書店大阪柏原店)、星真一(紀伊國屋書店グランフロント大阪店)、洞本昌哉(ふたば書房)、吉村祥(フォークオールドブックストアー )の各氏とぼく。司会は、服部滋樹(graf)、家成俊勝凱旋(ドットアーキテクツ)、後半、下北沢でB&Bという書店(何と毎日トークイベントをやっている!)を経営するブック・コーディネーター内沼晋太郎氏も加わった。

  「ラウンドテーブル」の名前通り、パネリストが楕円卓を囲み更にその周りを聴衆が囲む、勇壮な音楽に載っての登場シーンやお約束の罵り合いこそ無かったが「朝まで生テレビ」のような形で行われた。町の書店がどんどん無くなっている現状、ネット書店や電子書籍の話題、書店の取り分の薄さや参入障壁の高さなど、業界内ではよく取り沙汰される話題が続いたが、80人ほど集まってくださった客席の方々は熱心に聞いてくださり、予定の時間はあっという間に過ぎた。

 ナショナルチェーンから地域の店、雑貨や古書を扱う店まで、大小様々な業態の書店が一堂に会し、それぞれに未来への希望を語る4時間はぼくにとっても大変有意義な時間だったが、それ以上に、この座談会に出る準備として、12月に入ってからいくつかの書店を訪れたのが、とても勉強になった。座談会には参加されていなかったがセレクトショップとして折に触れて紹介される京都の恵文社一乗寺店やガケ書房にも恥ずかしながら初めて伺い、淀屋橋から京都に向かう京阪電車の中で読んだ、恵文社一乗寺店店長堀部篤史さんの『街を変える小さな店 京都のはしっこ、個人店に学ぶこれからの商いのかたち。』(京阪神エルマガジン社)に大いに刺激された。

 何よりも共感したのは、堀部さんが、恵文社一乗寺店がギャラリーも併設し雑貨も扱う魅力的なセレクトショップとして雑誌などで紹介されることで多くの人が訪れてくれることは歓迎しながらも、観光地になることをよしとはせず、あくまで店が立地する街に溶けこみながら周りのさまざまな店舗と共に街を形成し発展させることを第一としていることだ。本の中で堀部さんと対談しているガケ書房の山下さんもその思いは共有していて、恵文社からガケ書房まで徒歩で向かい、暮れはじめた白川通りを南下してガケ書房の近くまで来たとき、ひとりの若い女性がガケ書房の看板の写真を携帯で撮っているのに出くわしたぼくは、思わず苦笑してしまった。それらの店を支えているのは、評判を聞きつけて訪れた「一見(いちげん)さん」ではなく、左京区という学生や研究者やアーティストが多く住み独特の空気を漂わせている街そのものであることは、2書店の個性ある店づくりを見るとよく分かる。堀部さんは「街も店をつくる」と言う。

 何かのきっかけで、ある喫茶店や居酒屋に入る。その店に惹かれた客は、何度も通うようになる。味と店の佇まいに自信と拘りを持つ店主は、むやみに客に話しかけたりはしない。客もまた、「おすすめスポット」を見てやってきた「一見さん」とは違い、あれくれこれくれ、ああしろこうしろとネットで入手した情報を頼りにうるさく要求したりはしない。だが客は確かに店主を見ているし、店主もまた客を見ている。何度か通った後、ある日自然と二人は言葉を交わし始める。そんな客と店主の関係が店を成立させ、街をかたちづくる。

 「本宴・本について大いに語る宴」で、宮脇書店の萩原さんが「地元柏原の特産品を店頭に置くと不思議とよく売れる」と言われた時、スタンダードブックストアの中川さんはすかさず、「それは、本屋が特産品のことを語れる場所だからでしょう」と応じた。本は、この世界のあらゆることを語る商品だからだ。堀部さんは、「本屋は街の先生だった」とも書いている。

 だが、それは街の小さな書店や個性的なセレクトショップだけのことではない。ぼくが勤めている大型店もまたそうなのだ。自らが立地する街の方たちに、店を気に入って通ってくださるお客様に支えられて、あるのだ。売れ数、客数、売上高と、すべてを数字に還元して、一人一人のお客様の見、通ってくださるお客様と言葉を交わすことを、ぼくらは忘れていないか?

  今年九月に刊行された『努力する人間になってはいけない』(ロゼッタストーン)で、「日本の学歴社会がすごく優れているのはたった一日の受験で決まるからこそ」と、大方の反発を食らいそうな逆説を言ってのけ、徹底した「点数主義」こそが「敗者復活装置」であり、人柄や就学実績を勘案しようとする入試制度こそ、親の財産や職業、環境の影響を避け得ず、「階層」を固定してしまうというと説得力ある議論を展開する芦田宏直氏は、「高等教育は若い奴らの自尊心を破壊するところ」だ、学校は何を教えうるかが先にあるべきで、学生を「顧客」と見なす学校は危ういと書いている。

  このような気概をぼくらも持つべきではないか、と思う。客を「教育してやろう」などという居丈高な態度は論外だし、そもそもそのような能力はぼくらにはないが、只々売れ数だけを見て後追いし、売れ行き良好書の確保にのみ血眼になるのではなく、ぼくたちもまた、選書や棚づくりを通して、自分たちのメッセージを臆することなく発信していかなければならないのではないだろうか?

  「セレクト、セレクトって言われるけど、小売店が商品を選ぶのは当たり前」と、堀部さんは言う。




 

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福嶋 聡 (ふくしま ・あきら)
1959年、兵庫県生まれ。京都大学文学部哲学科卒業。1982年ジュンク堂書店入社。神戸店(6年)、京都店(10年)、仙台店(店長)、池袋本店(副店長) 、大阪本店(店長)を経て、2009年7月より難波店店長。
1975年から1987年まで、劇団神戸にて俳優・演出家として活躍。1988年から2000年まで、神戸市高等学校演劇研究会終期コンクールの講師を勤める。日本出版学会会員。
著書:『書店人の仕事』(三一書房、1991年)、『書店人の心』(三一書房、1997年)、『劇場としての書店』(新評論、2002年) 『希望の書店論』(人文書院、2007年)