○第141回(2014/6)

  6月21日(土)、ジュンク堂難波店に一水会顧問の鈴木邦男さんをお招きし、『歴史に学ぶな』(dZERO)刊行記念トークイベントを開催した。

  トークは、テーマである著書を中心に、「女子大生、OLがカレシにしたい『歴史上の人物』」ベスト3だという坂本龍馬、織田信長、土方歳三は、すべて司馬遼太郎が書いたヒーローに過ぎないと指摘、自らも右翼活動家であった若かりし日々に土方歳三に魅了されていたことを「自己批判」しながら、小説や映画に描かれた〈歴史〉や人物像は美化され、実際の歴史事実からは大きくかけ離れている、だから、「歴史に学ぶな」と参加者に訴えて始まった。

 鈴木さんがつくられた〈歴史〉に学ぶな、むしろ体験に学べ、と訴える第一は、戦争である。映画やドラマに仕立て上げられた〈戦争〉ではなく、”ひたすら暗く、残酷で救いがない”実際の戦争を、そこに居合わせた人々から学べ、と鈴木さんは言う。そして、何人もの漫画家がそれぞれの体験を描きこんだ『漫画が語る戦争』(全2巻 小学館クリエイティブ)を推薦する。

 鈴木さんは大の読書家であり、書店を大いに愛し、その行く末を気にかけてくださっている。

 「本屋に勤めている人は、月に何十冊と本を読んでるんでしょう?」月に30冊読むことをノルマとして自己に課している鈴木さんから発せられることをぼくがもっとも恐れていた質問が、トーク半ばで投げかけられた。

  「月に何十冊も本を読んでいる書店員がいたとしたら、それは多分仕事をしていない書店員で、ぼくはそういう人を叱らなければならない立場にある」と、会場からの笑いを誘って逃げるしかない。

  「でも、本が好きな人が勤めてるんでしょ?」、鈴木さんの尋問は止まらない。「いや、本が好きでない人も、いるかもしれません」「?」

 「最近、本は月に一冊しか読まない大学生が4割もいる、と新聞で読んだ。そんなの大学生じゃないだろう、本を読むのが商売だろう、読まないのなら大学生なんてやめちまえ、と思う。」と少しばかり矛先が変わったことに、ぼくは助けられた。

  「かつては、いろんな思想全集があった。筑摩とか、河出とか。最初は必要なものから読んだのです。『国家神道』や『保守主義』とか。でもそのうち欲が出てきて、せっかくだから全巻読んでみようと欲が出てきて、『反戦の思想』とか『平和の思想』とか。その時はわからなくても、考えて、悩んで。それがよかったと思いますね。」自らの読書体験を振り返りながら、読書とは、決して自分の考えをより強固にするために読むことではない、と鈴木さんは言う。

  「自分の考えが崩される、自分の思い込みが崩れると、嬉しい。ああ、そうだったのか、と。そういう異質なものに出会うために本というものはあるんですよ。自分と違う考え、自分とは全く反対の、自分には理解できない考えが、なぜそうなるのかを知るために、本というものは読む必要がある」

  今、書店の棚を席巻している『呆韓論』、『嫌韓流』、『恥韓論』などというタイトルを(おそらく苦々しく)眺めた上での発言である。鈴木さんのような意識を持って本に対峙する読者がもっと多ければ、書店の風景も、国家のありようも、今とはずいぶん異なったものになるに違いない。

 ネットショッピングでは当たり前になったレコメンド機能にも、言及する。「こういう本を読んでいる人は、こんな本も読んでいますよ、なんていうアドバイスではなく、こんな本ばかり読んじゃ駄目ですよ、違う考え方のこういう本も読んだらどうですか?とアドバイスした方がいいのでは?」

 そうでありたい。ぼくたちは、これを売りたい、是非多くの人に読んでほしいと思う本に関して、もっと積極的で貪欲であっていいのだ。

  「最近、ほら、料理の相談をするような人が、書店でも出てきましたね。コンシェルジュ?ああいうのは、どうですか?」鈴木さんの本好き、本屋好きは半端ではない。

  「ぼくはやる自信はないですね。」今度はキッパリと、ぼくは答えた。

  「本当に限られた範囲内ならできるかもしれないが、本のことを訊いたらなんでもわかると謳っているのだとすれば、コンシェルジュを詐称する自信はありません。そうありたいという思いを持ち努力することはとてもは大事だと思うが、何から何まで知っているような書店員は、どこにもいません。もしもコンシェルジュに本のことを訊いて、いきなりネットを検索しようとキーボードを叩いて、『こんなん、出ました』と答えたとしたら、ひどくがっかりするしかないですよね。」

  「それだったら、最初から自分で叩けばいいんだ」と鈴木さんは笑う。

 「ただ、」とぼくは続けた。「何か得意分野を持っている書店員も多い。それがお客様自身も興味を持っている分野なら、そういう書店員を見つけて色々な情報を聞き出したり、利用したりしたらいいと思います。どういうジャンルが得意かは、棚を見ればわかる。それを探って色々とその書店員に聞いてみるのは、上手な書店の利用法だと思うし、書店員にとってもはげみになります。」

  そうした関係を持てたお客様からの問い合わせに対して、「いや、その本を読むんなら、こちらを読んだ方がいいですよ」と応えることができれば、書店員冥利に尽きるだろうな、と夢想したりする。

  同時に、思う。お客様とそのような関係を持てるならば、それは、書店員にとって何よりも勉強になるだろう。お客様が発してくださる問いこそが、ぼくたちの研鑽の源だから。書店に来てくださるお客様こそが、ぼくたち書店員にとってのコンシェルジュなのである。

 
 追記;鈴木さんが、ウェブマガジン「マガジン9」で、トークの様子と感想を書いてくださいました。併せてお読みいただけるとうれしいです。

http://www.magazine9.jp/article/kunio/13285/


 

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福嶋 聡 (ふくしま ・あきら)
1959年、兵庫県生まれ。京都大学文学部哲学科卒業。1982年ジュンク堂書店入社。神戸店(6年)、京都店(10年)、仙台店(店長)、池袋本店(副店長) 、大阪本店(店長)を経て、2009年7月より難波店店長。
1975年から1987年まで、劇団神戸にて俳優・演出家として活躍。1988年から2000年まで、神戸市高等学校演劇研究会終期コンクールの講師を勤める。日本出版学会会員。
著書:『書店人の仕事』(三一書房、1991年)、『書店人の心』(三一書房、1997年)、『劇場としての書店』(新評論、2002年) 『希望の書店論』(人文書院、2007年)、『紙の本は、滅びない』(ポプラ新書、2014年)