本屋とコンピュータ(68)
  

        福嶋 聡 (ジュンク堂 大阪本店)

 三月末に店長として大阪本店に赴任したぼくは、当初違った環境に戸惑いながらも、少しずつローカルルールに馴染み、スタッフ一人一人の人となりを把握し、そのことと並行してスタッフの方も新しい店長に馴染み少しずつ理解してくれるというプロセスを経ながら、やはり気持ちの上でぼく自身のペースを取り戻しつつあるかなと思える端緒となったのは、中之島図書館の貸し出しカードを作った日だったかもしれない。

 とはいえ、現在中之島図書館にそれほどの資料が揃っているわけではないことは事前に知っていた。その日も、中之島図書館では新書を二冊借りただけ、家に帰って早速大阪府立図書館のホームページにアクセスし、いただいた図書館利用者番号とパスワードを使って、資料貸出しの手続きを取った。ぼくが借りたい資料はほとんど東大阪市の大阪府立中央図書館にあり、そこから中之島図書館に転送してもらうことを、最初から目論んでいたのである。異動前にとてもお世話になった埼玉県立でも見つからなかった萌書房のシェリング関係の図書もあり、ネットで申し込んで中之島図書館で受け取った。

 中之島図書館は、大阪本店から徒歩で10分以内の距離、8時まで開いているから早めに上がれる日には寄れるし、昼休みに行って帰ってくることも可能だ。歴史ある図書館を、戸田市に在住していた時の近くの分室のように利用しているわけである。

 常にそこにある必要はない、速やかにそこに移動してくれればよい。本というものには、そうした属性もある。偶然なのだが、大阪本店着任早々、客注担当者が手薄となり、ぼく自身が手伝うことになった。客注の処理・案内は仙台店時代もやっていたことがあるが、今では出版社品切れ重版未定の商品が、かなりの率で、他支店の在庫を送ってもらうことによってお客様に提供できていることを知った。そうやって入手できた商品の入荷連絡をした時、電話の向こうでお客様が「やったー!」と言って下さったときの嬉しさ言ったらない。

 人と本を結ぶこと、仮に多少のタイムラグがあるにせよ、そのことこそが書店の、図書館の最大の役割だと思い直した次第である。

   
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© Akira    Fukushima
 2007/05
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